うたたねせかい

オリジナル創作やら版権やら日記やらをあげる雑記集

私の小さい背(うちの子ss)

 小さい頃から、守られてばかりいた。「鈍感」だなんて言われることの多い私だけど、それくらいは気付いている。もちろん、その場面にいつも気付いているわけではないことは分かっているんだけど。

 いい大人と一般的にも言われるだろう年齢になった今だから、もう一度考えてみる。私は昔から力も人より少し強かったし、他の人と比べるとたぶん何かと動じたりすることも少なかったような気がする。特別体が弱かったわけではないし、これでも大学は首席で卒業したのだ。「守りたい」と思われるような何かが私にあるとすれば、やっぱりコンプレックスでもあるこの小さすぎる身長だと結論に至る。

 135cm、8歳も年の離れた妹に抜かされたのは、もうずっと前だ。今も小学校で仕事をしていれば、小さかった子もあっという間に私を抜かしていく。今ではそんなことも微笑ましく感じられるようになったけれど、昔はみんなに置いて行かれることが怖くてたまらなかった。必死に牛乳を飲んでみたり、いろいろしたけど何も効果がなくてひどく落ち込んでいたのが懐かしい。たぶん私は成長期が人よりずっと遅いのだ。みんなには「もう伸びないよ」なんて言われることも多いけれど、信じていればいつか叶うかもしれないので信じることにしている。

 話が少し逸れてしまったけれど、つまり私がもし身長が今のように低くなかったら、私は今の職業に就いていなかったのではないかと思うのだ。何せ私が今の職業を選んだのは、背の低さ故に守られる自分自身が嫌で、私なりに誰かの役に立てる道を考えた結果だった。そのための勉強は必死にやったし、実際今でもその頑張りが日々の仕事にも役立っていることが多い。でももし私が小さくなかったら、私はどんな風にして自分の歩む道を決めるのだろう。心底考えても今が現実なのだから意味はないのだと分かっていても、小さな背というのは私にとって良くも悪くも私自身の道に深く関わるものだから、気になって仕方がなかった。私には全く想像もつかない。

「ねえ、木幡君。私の背が大きかったら、私はどんな職業に就いてたと思う?」

「ずっと考え込んでると思ったら、何ですか?突然」

 仕事終わりの飲みに付き合ってくれている後輩は、私のそんな言葉に驚いた表情で返事を返した。彼の様子にかまわず、私は自分の考えていたことをとにかく話してみる。木幡君は、私の話をよく聞いてくれることを知っているからだ。実際彼はとても真剣に聞いてくれた。

 しかし、話終わった途端、彼は我慢できないとばかりにくすくすと笑い出した。私だって真剣に考えていたのに、むうっと思わずむくれてしまう。

「私、真剣に聞いたのに……」

「ああ、いえ、先輩のことを笑ったわけではないですよ。でも、そんな疑問抱くまでもないと思ったのでつい」

 とりなすように木幡君は、私に言う。じゃあ彼には想像がついているのだろうか。

「え?木幡君は想像つくの?」

「そりゃあ、今と変わらないですよ。先輩は確かに背は小さいですけど、きっとそれだけが今の職業に就いた理由ではないと思いますよ。それが原因の根幹にあったとしても、もし、先輩の背が逆に大きくたって、先輩は今の職業に就くんじゃないですか?だって、背の大きさは変わったとしても先輩の懐の大きさとか優しさは変わらないでしょう?」

 満面の笑みで、屈託なく木幡君はそう答えをくれた。きっぱりと言い切られるし、何か嬉しい言葉はもらうしで、すっきりしたような、でもくすぐったいような複雑な気持ちになった。かつて、心配になるような様子で私のもとにやって来た少年は、今では頼りになる後輩なんだなと成長した彼を改めて思ったりした。

「よし、今日は私がおごっちゃうぞ」

「うわあ、それはダメです! 先輩自分で全部払うってなると、すごく飲むじゃないですか!! お酒弱いのに!」

 どうしてか、慌て出す木幡君を尻目に、私は新たにお酒を頼むことにしたのだった。

 

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うちの子SS第1弾ということで、紫雨のお話を書かせていただきました。ここまで読んでいただいてありがとうございます。木幡についても後で紹介を書かせていただきますが、精神科医で、勤め先が同じです。そして、紫雨が前に担当した少年であり、彼女の姿にあこがれて、同じ職場で働けるような今の仕事を選んだというつながりがあります。後最後に彼が慌てているのは、とにかく酔っぱらうと紫雨は絡み酒になるからです。しかも力も強いため、なかなか手に負えなくなるし、本人にも記憶がないという嫌な酔い方ですね(-_-;)